
懐かしい未来の絵画
今から16年前、人面魚が大きな話題になり、テレビのワイドショーなどでも盛んに取り上げられました。といっても、本当に人の顔をした魚がいたわけではなく、コイの頭部の模様がそう見えただけのことでした。「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という有名な川柳もあるように、人は心理状態によって、実在しないものでも現実に存在すると思い込んでしまうもののようです。 だまし絵とかトロンプ=ルイユと呼ばれる絵画は、こうした錯視を積極的に応用したものですが、考えてみれば、絵画の本質は錯覚と不可分な関係にあります。キャンバスという二次元の虚構の世界に、眼の前にある三次元の現実を表現するのが絵画だとすれば、当然のことながら、描かれたものは現実のたんなる視覚情報にすぎず、けっして現実存在そのものではありません。描かれた幻影の世界 ─ これが絵画の始原の姿だといえるでしょう。
山内崇嗣が新作で描くオニグルミは、冬に葉が落ちた痕がヒツジやサルの顔を思わせます。もっとも、山内の作品は、幻影性(イリュージョニズム)を執拗に探求する現代絵画のさまざまな企図とは一線を画しています。画家の関心が、たんに大脳生理学的な知覚情報の混乱でないことは、ほかの作品を見れば明らかでしょう。たとえば、折衷様式と呼ばれる旧三重県庁舎、旧小笠原伯爵邸、一橋大学などの戦前の擬洋風建築や、リアリズムを追求した高橋由一《左官》(1973-76年、金刀比羅宮蔵)や岸田劉生《壺の上に林檎が載って在る》(1916年、東京国立近代美術館蔵)の近代日本洋画、あるいは心霊写真を描く絵画があります。モティーフのキッチュさに大きく依存するこれらの絵は、幻影性の創出に代わって、忘れられつつある「美」の再発見を促しているかのようです。
独創的な美の創造を放棄して、山内が目指すのは、近代主義(モダニズム)が打ち捨てて顧みなかった美的価値だといってもあながち見当はずれではないでしょう。『知られざる傑作』に登場する幻の傑作《美しき諍い女》に着想をえた、女性の足元だけを描いた作品がそのことを示唆してくれます。バルザックのこの短篇小説に関して、美術史家のドーレ・アシュトンは、独創性こそをもっとも重要な命題とする架空の天才画家フレンホーフェルの言説に近代主義がはっきりと予見されていることを論証しています。だから、山内が着想をえて描く戦前の建築や絵画が、どこかしら過去へのノスタルジーを喚起させるのも当然かも知れません。
けれども、山内崇嗣の回帰が単純な懐古趣味でないことはその展示構成に充分に表れています。出品リストの番号は61までですが、じっさいに展示されているのは52点で、しかもそのうちの1点は何も描かれていない無地のキャンバスです。また、題名がすべてサイズと制作年月日を示す数字と記号の組合せになっている出品作は、横幅こそ異なるものの、縦幅が均一に揃った4種類のキャンバスに描かれています。欠番があるのは、廃墟と化した100年後の美術館をイメージしたためですが、シリコンで絵具を意図的に剥ぎ取る彼独特の技法ともうまくマッチしています。整然と並んだ作品を見廻せば、リアリズムからミニマリズム、コンセプチュアリズムにいたる、現代絵画の多様な実験をまるでサンプル化したみたいです。こうした展示構成が、ほのかなノスタルジーを漂わせつつ、現代絵画の新たな可能性を垣間見せてくれるのです。幻影性の追求でもその安易な否定でもない地平で、山内崇嗣は自らの絵画の進むべき道程を模索しているのです。
*ギャラリーからのコメント
古いけど新しい、新しいけど古い、どっちこっちそっちな、美術版Back to the Future 山内崇嗣の最新作。
妖怪以上妖精未満な山内のルックス、作品、全てに見応えあり。
1975年:石川県金沢市生まれ
1998年:武蔵野美術大学油絵学科卒業
<主な展覧会・受賞歴等>個展2000年: 山内崇嗣展 / 伊藤忠ギャラリー(現:エムアンドアイアートシステム株式会社) / 東京2001年:山内崇嗣・絵画展 / メゾンリベラール103 / 東京2002年: 山内崇嗣展 / galleryPAX / 東京2002年:omolo.com/expo / switch point / 東京2006年:project N 27 山内崇嗣 / 東京オペラシティアートギャラリー / 東京2007年:Toshiki Yagisawa Selection Ver.1.0 / Gallery Countach/ 東京グループ展2001年:SAP ART-ING TOKYO 2001 / SAIZON ART PRPGRAM / 東京2001年: What's the difference between....... / クンストビューロ / ウィーン"2008年:VOCA展/上野の森美術館/東京受賞1998:昭和シェル現代美術賞受賞(入選)2005:「the Ambassadors’ Art Prize 2005」Decourtenayギャラリー(ベルギー)/Decourtenay Prize 受賞
| 727x727mm 03/07/2008 | |
| 727x727mm 03/07/2008 | |
| 山内崇嗣 | |
| Takashi Yamauchi |
| 制作年 | 2008年 |
|---|---|
| エディション |
オリジナル |
| サイン | あり |
| 技法 |
油彩、キャンバス |
| 作品本体サイズ(縦×横) |
72.7x72.7cm |
| 作品の状態 |
良好 |
| 額仕様 |
なし そのまま飾っていただけます。 |
| 額寸(縦×横×奥) |
72.7x72.7x0cm |
| お届け期間 | 約2週間 |
| 特記事項 | 額装費に記載されている金額は、保存箱、黄袋の代金になります。 |
| 海外店頭価格 | (2008/09/24 更新) |
| 品番 | C000-03224 |
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